バレエを知らなくても泣ける

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少女漫画が宿す魂の哲学

少女漫画が宿す魂の哲学

藤井 厳喜

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有吉京子が42年をかけて描き切った大作『SWAN』は、バレエに興味がない人間でも一気に読ませる圧倒的な力を持つ漫画だ。藤井厳喜が語るのは、3次元の動きを2次元で描く驚異的な画力だけではない。「人間はなぜ芸術を必要とするのか」「美とは何か」「自分を乗り越えていくとはどういうことか」という哲学的な問いへと、この漫画は静かに読者を連れていく。芥川龍之介、岡潔、そして芸術論まで展開する異色の漫画評。最後まで読めば、あなたも今夜この漫画を探したくなるはずだ。

1.42年かけて完結した「バレエ根性もの」の到達点

1.42年かけて完結した「バレエ根性もの」の到達点

1976年から『週刊マーガレット』で連載が始まった『SWAN』は、本編12巻、ドイツ編・モスクワ編各4巻、計20巻超の大長編だ。作者・有吉京子はほぼ人生をかけてこの作品を描き続け、完全完結まで42年を要した。主人公・聖真澄は北海道出身の少女で、天才バレリーナだった母の記憶をほとんど持たぬまま、バレエの世界に飛び込んでいく。いわゆるスポ根もの的な構造を持ちながら、後半になるほど「今日の自分を乗り越えて新しい自分になる」という哲学的な問いへと深まっていく。ライバルたちはことごとく卑劣な存在ではなく、同じ真善美を追い求める尊敬すべき仲間として描かれており、そこに読者が感動を覚える核心がある。

2. 静止画なのに、動いて見える技術

2. 静止画なのに、動いて見える技術

藤井がこの漫画を技術的な観点から高く評価するのが、バレエという「動き」を紙の上で表現する画力だ。両面見開きのコマに描かれたバレリーナの姿は、静止画であるにもかかわらず、重力を感じさせない躍動感を宿している。10頭身の美男美女しか登場しない、典型的な少女漫画の絵柄でありながら、巻末のイラストシリーズは1枚の絵画として独立して成立するほどの完成度だ。バレエに全く興味がない人間が読んでも一気に引き込まれる。それはストーリーの力だけでなく、この圧倒的な画力が支えているからこそだと語る。技術と情熱が42年間途切れなかったことの証明が、この20巻に詰まっている。

3. 「人間はなぜ美を求めるのか」漫画が引き出した芸術論

3. 「人間はなぜ美を求めるのか」漫画が引き出した芸術論

藤井が『SWAN』を語るうちに辿り着くのは、芸術とは何かという根本的な問いだ。芸術とは「人間が神の真似をすること」であり、創造主である神にわずかでも近づこうとする本能的な衝動だという。現実は汚い嘘にまみれているからこそ、人間は真善美の純粋な世界を芸術の中に作り出そうとする。バレエはその中でも特殊で、自分の肉体そのものを道具として、重力に縛られた日常を超えた世界を舞台上に創出する。芥川龍之介の「美は神々の世界からこの世に投影された影だ」という言葉、数学者・岡潔のそれへの共鳴。1本の少女漫画が、こうした人間の本質への問いを引き出してくるところに、『SWAN』の本当の凄みがある。

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内容紹介

内容紹介

  1. 42年かけて完結した「魂の成長物語」
    『SWAN』が少女漫画の到達点である理由 


  2. 少女漫画が持つ「3次元表現」の技術
    重力を感じさせないバレリーナの躍動を2次元で描き切る画力の正体


  3. 人間はなぜ「美しい嘘」を必要とするのか
    芥川龍之介・岡潔・そして『SWAN』が教える美の哲学

編集後記

編集後記

「バレエ全然興味ないけど読んで感動した」という藤井先生の言葉が、この漫画の凄さをいちばんよく表していると思った。そしてそこから一気に芸術論・神学・岡潔の数学論まで展開してしまうのが面白かったです。「ルシーはどこかで消されるな」と読んでいたら案の定だったというエピソードは、物語の構造を読む目が鋭いと感じた。現実は汚い嘘にまみれているから、人間は芸術という「美しい嘘」を必要とする。その逆説が腑に落ちると、なぜ人が漫画を読み、音楽を聴き、絵を描くのかが突然クリアに見えてくる。

 

プロフィール

プロフィール

藤井 厳喜

藤井 厳喜

国際政治学者

国際政治学者

国際政治学者。ハーバード大学大学院博士課程修了。日本のマスメディアでは決して報道されない、欧米政府が扱うレベルの政治・経済の動向、そして市民レベルの情報も踏まえて、文化、思想、宗教など多方面から分析し未来を的確に見抜くその予測能力は、内外の専門家から高く評価されている。

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