「秋の夜の囲炉裏」が消えた

「秋の夜の囲炉裏」が消えた

日本言論界の巨人を悼む

日本言論界の巨人を悼む

藤井 厳喜

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「ヨーロッパは進んでいて、日本は遅れている」その思い込みを1冊の本で覆した人がいた。日本言論界の重鎮・西尾幹二先生は2024年11月1日、89歳で逝去された。「新しい歴史教科書をつくる会」の初代会長として歴史教育に一石を投じ、移民反対を早くから主張し、全体主義と闘うトランプを正確に評価し続けた先覚者だった。藤井厳喜が振り返るのは、勉強会での活発な議論、居酒屋での本音トーク、カラオケで軍歌を知らなかったという素顔、そして老人ホームからびっしりと届いた小さな葉書の話だ。先生が残した言葉と足跡は、今なお日本が何を失ったかを静かに問いかけてくる。最後まで読めば、あなたもきっとその本を手に取りたくなる。

1.「ヨーロッパは進んでいる」という思い込みを壊した1冊

1.「ヨーロッパは進んでいる」という思い込みを壊した1冊

藤井が高校2年生の時に出会った西尾幹二先生の著書『ヨーロッパの個人主義』は、当時の常識をひっくり返す1冊だった。「ヨーロッパが進んでいて、日本が遅れている」という進歩的文化人の論調が支配していた時代に、先生はまったく逆の視点を示した。ヨーロッパの個人主義とは日本人が想像するような温かい共同体ではなく、個人と個人の間に深い溝が走る孤独な社会なのだと。日本は遅れているのではなく、文明が違うのだと。この「目からウロコ」の視点が、後の藤井厳喜の思想形成のコアになったという。知識を「主義のレンズ」ではなく「文明の違い」として見る習慣は、この1冊から始まった。

2. レポートを読み続けた先生と葉書びっしりの几帳面さ

2. レポートを読み続けた先生と葉書びっしりの几帳面さ

西尾先生は藤井の『ケンブリッジ・フォーキャスト・レポート』を晩年まで読み続け、電話でコメントや質問を寄せてくれていた。2016年の大統領選でトランプ優勢を早くから伝えていたこと、ヒラリー・クリントンの健康状態に医師が同行していたという情報も、このレポートで先生はいち早く知っていたという。先生の著書『日本はアメリカに民主主義を教えよ』の中には、「藤井さんのレポート以外に絶無でした」という一文まで残されている。そして老人ホームに入居後も、裏表びっしりと小さな字で埋め尽くした葉書が届き続けた。最後の葉書には「今も来たお客さんに、日本で国際情勢が最もよく見えている人間の1人と紹介している」と書かれていたという。

3. 囲炉裏のような人「偉大な常識人」が残したもの

3. 囲炉裏のような人「偉大な常識人」が残したもの

「新しい歴史教科書をつくる会」の設立、毎月の勉強会「道の会」での白熱した討論、カラオケで軍歌を知らずに「どこかで聞いたことがある」と笑っていた素顔。西尾先生はニーチェ研究の大家でありながら、極めて常識的で温かな人物だったと藤井は振り返る。学者の中には付き合いの難しい奇人もいるが、先生は「偉大な常識人」だったと。移民反対を80年代から一貫して唱え、均質性の高い日本文明を守ることの大切さを説き続けた先生の主張は、2026年の今もまさに日本が直面している問いと完全に重なる。「秋の夜の囲炉裏のごとき人なりき」逝去から2年が経った今も、その言葉と人柄は日本言論界に静かに灯り続けている。

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内容紹介

内容紹介

  1. 「ヨーロッパは進んでいる」という嘘を1冊の本で壊した人
    西尾幹二『ヨーロッパの個人主義』が教えた文明を「優劣」ではなく「違い」で見る視点


  2. 西尾幹二という知の求心力
    勉強会・葉書・カラオケ。「偉大な常識人」が人を引き寄せた理由


  3. 80年代から言い続けた「移民反対」は今や現実になった
    西尾幹二先生の先見と均質な日本文明を守ることへの一貫した信念

編集後記

編集後記

訃報を受けて追悼の句を詠むというのが、藤井先生らしいと感じました。「秋の夜の囲炉裏のごとき人なりき」という一句に、その人柄がすべて入っている。葉書をびっしり小さな字で埋め尽くして送り続けた先生の几帳面さと、最後に「ぜひ来てくれ」と書いてあったのに会いに行けなかったという藤井先生の後悔が心に残りました。2024年に逝去されて時間が経った今も、先生の言葉と問いは古びていない。高校2年生の時に読んだ本が思想形成のコアになったという話は、良い本との出会いがいかに人の一生を変えるかを改めて教えてくれます。

 

プロフィール

プロフィール

藤井 厳喜

藤井 厳喜

国際政治学者

国際政治学者

国際政治学者。ハーバード大学大学院博士課程修了。日本のマスメディアでは決して報道されない、欧米政府が扱うレベルの政治・経済の動向、そして市民レベルの情報も踏まえて、文化、思想、宗教など多方面から分析し未来を的確に見抜くその予測能力は、内外の専門家から高く評価されている。

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