音楽
Sep 30, 2025
ゲスト
小山 豊

津軽三味線。それは、雪深い北国の民謡から生まれ、いまや世界に響く“魂の絃”である。津軽三味線小山流三代目家元・小山豊さんが語るのは、ただの楽器ではなく「生き様」としての音。 もともとは歌の“伴奏”として始まり、門付け芸や即興の場で磨かれたこの音楽は、 いつしか一人立ちし、ロックやジャズとも共鳴する自由な表現へと進化を遂げた。伝統を受け継ぎながらも、世界へ羽ばたく津軽三味線。 そこに流れるのは“放浪と闘い”のDNA。 日本人の中に眠るリズムの記憶を呼び覚ます“音の旅”、最後まで見逃すな!
津軽三味線の特徴は、激しい撥さばきと圧倒的な音圧。その力強さゆえに、一度演奏すれば弦の張力が変わり、すぐに調音がズレてしまう。つまり、1曲ごとに“調絃し直す”のが当たり前。これが津軽三味線のリアルだ。また、皮には犬皮などが使われ、繊細かつ生命感ある響きを生む。演奏のたびに変化する音を“生き物”のように扱うこの文化は、まさに自然と共に生きてきた日本人の感性そのもの。「常に整わない音を、瞬間ごとに整えていく」この不完全さの中にこそ、津軽三味線の真の美学が宿っている。

津軽三味線には、もともと“譜面”という概念がなかった。それは、目の不自由な人々によって口伝で受け継がれてきた芸だったからだ。「聴いて覚える」「体で感じて学ぶ」それが伝統の継承方法。そんな世界に革新をもたらしたのが、小山豊さんの祖父・小山貢翁さん。
初めて譜面を体系化し、独奏芸だった津軽三味線を“共有の音楽”へと導いた。その功績が「小山流」の礎となり、今日の教育・普及の基盤を築いたのだ。口伝の世界に“記録”を持ち込んだことで、津軽三味線は「伝統を守る音楽」から「未来へ伝える音楽」へと進化した。
津軽三味線のリズムは、津軽弁の訛りそのもの。言葉の抑揚・間・テンポが、そのまま音のリズムに変わる。だからこそ、他地域の奏者が同じ譜面を弾いても“津軽らしさ”は再現できない。口伝で受け継がれることで、土地ごとの“言葉の音楽”が自然と刻み込まれているのだ。この「リズムの訛り」こそ、民謡の土着的魅力の源泉。そこには、土地の風、雪の重さ、人の呼吸。あらゆる“生活の音”が凝縮されている。譜面では表せないニュアンスを、耳と身体で伝えていく。津軽三味線は、まさに“土地が奏でる音”なのだ。

「津軽三味線について」
一度弾くだけで調音がズレる?日本人でも知らない津軽三味線のリアル
「小山流の特徴」
津軽三味線の用の譜面を作ったのは祖父から?小山流が始めた津軽三味線の革新
「津軽三味線の可能性」
邦楽器の中で最も新しい楽器が、実は津軽三味線だった!?
「津軽民謡の魅力」
言葉が訛るから、リズムも訛る?口伝だからこそ色濃く残る民謡の土着的魅力
津軽三味線が“音楽”という枠を超えた「生きる力」そのものだということです。激しい撥さばきの裏にあるのは、ただの技巧ではなく、何度絃が緩んでも自分の手で調音し、もう一度立ち上がる。そんな“人の強さ”です。雪深い津軽の地で、耳と心だけを頼りに受け継がれてきた音には、師匠の息づかいや、土地の風の音、暮らしの鼓動がそのまま息づいています。津軽三味線の音は、不器用なほど真っすぐで、どこか懐かしく、温かいです。それはきっと、私たちの中にも流れている“人間らしさ”の証なのだと思います。次にその音を耳にしたときは、ぜひ技巧だけではなく、そこに生きる一人の人間の息遣いを感じてみてください。音の奥にある“生きる物語”が、きっとあなたの心にも静かに響くはずです。
津軽三味線では、日本最大流派である小山流三代目家元。幼少より津軽三味線小山流宗家(祖父)小山貢翁に師事。 国内はもちろん海外30ヵ国以上で演奏活動を行なう。
古典以外にもさまざまなコラボレーションを行い、大人気アニメ「鬼滅の刃」において三味線の音を収録。津軽三味線や民謡をはじめとする和の文化を日常に戻すべく、伝統の継承と柔軟な解釈で新たな楽曲を生み出し続けています。
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